Fri
12
Apr
2013
貴志祐介の未来SFである新世界よりを読んでみました。文庫本で上中下の3冊でしたが、読み始めると一気に読み終えてしまうほど引き込まれる独自の世界観が広がっている物語です。現代から千年後の日本が舞台ですが、呪力と呼ばれるサイコキネスが常用されている日常と随分と衰退?しているように感じられる人類社会が、今の現代の延長線上にどうやって出現したのか興味が惹き付けられ、それがこの本のテーマともなっています。
遠未来SFというと地球の長い午後に代表されるような人類が衰退しきったパターンから、現代の科学文明の延長線上に宇宙に版図を広げたパターンで大きく分かれていますが、この「新世界より」は衰退しているもののサイコキネスを手に入れているということで、人類の地位は地球上ではかろじて頂点を維持しているという位置付けになっています。バケネズミという使役している知的動物との闘争を通して、その社会システムの限界と過去の歴史の闇が明らかになっていくという筋立てで物語は進んでいきます。最後は主人公の前向きで積極的な行動を予感させる終わり方で希望が持てますが、人口が激減し文化レベルが数世紀も戻ったような社会描写には、暗淡たる思いを感じさせられて気が晴れない話ではあります。
うっすらと予感はさせられてはいましたが、バケネズミが被支配階級の人類の末裔で、彼らに与えられた仕打ちの描写には、社会システムの継続的な発展が維持されない限りは、いとも簡単に中世以前のマインドに戻ってしまうという人間の本性を警笛されているように思えます。ここまで衰退してしまうと元の文明レベルに戻るのにどの位掛かるのか、気が遠くなる気がしますが、よくあるように地球の悠久の歴史の中では人類の歴史など瞬き同然ですから、大した話ではないのかも知れません。最後は主人公である語り手が、町のリーダーとなり人類の前向きな発展に期待を持たす終わり方?とはなっていますが、こんな境遇になってしまうと果たしてどのような未来が人類に待っているのか前途多難ではあります。
この貴志祐介ですが、以前に「黒い家」を読んで本当に怖いな?と感じて以来でしたが、こんなSFも書くのだなーと新鮮でした。この2作品以外は、他に読んだことがないので、是非また読んでみたいと思います。
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