Fri
29
Apr
2022
未だに余韻の覚めきらないSF傑作の「三体」シリーズですが、その著者である劉慈欣氏による日本向けの短編集「円」を読んでみました。既に読了していた本著者の短編が収録されている「月の光 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)」や「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)」で読んだ短編も再録されており、改めて「三体」という前代未聞のSF大作を書き上げた氏の作品の幅広さが分かる短編集です。
十三篇が収録されており、発表順で並んでいるようで、表題作の「円」は最後の作品となっています。「三体」を既に読まれた方はよく分かると思うのですが、バリエーションの豊富な短編集の中に、「三体」のモチーフとなったアイテムが数多く見られて、ある意味「三体」は氏のこの時点での集大成だったのかとも思わせます。
細かい書評や各々の作品の解説は巷のサイトなどで十分かと思いますので、私個人で一番大好きだった短編はどれかというとやはり「卿村教師」ではないでしょうか。「三体」もそうなのですが、当たり前ですが中国の作家なので、随所に中国文化の描写や背景が表現されており、これはこれで今まで知らなかった中国の見方や文化への理解で参考になります。この「卿村教師」も中国の貧村のある意味、悲惨とも言える教師の末路から始まるのですが、これが何とも宇宙的スケールで顛末としては地球ならず銀河を救う話に繋がっていく展開は(しかも短編で!)本当に圧巻です。
これ以上はネタバレですので、未読の方は読んでのお楽しみとして、他の短編集も本当にバリエーションに富んでいて、「三体」のような前代未聞の大作の後にこれ以上のSFが生まれるのか心配でしたが、これらの短編を読んだ後ではむしろどんなジャンルのどんな切り口のSF長編が次回に読めるのかという楽しみが沸いてきます。是非とも次回の長編を一日も早く読んでみたいものです!
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