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31

Mar

2023

法治の獣 (ハヤカワ文庫JA)

久しぶりの邦題のSF小説「法治の獣」を読了しました。本書には中編ボリュームの3編が収録されていますが、どれもファーストコンタクトもので、未来の人類社会が太陽系外へ進出しつつある時代(作者の解説によると25世紀あたり?)に、系外にある惑星の生物との遭遇を描いています。といっても、所謂、なにか凄いテクノロジーの異星人といきなりコミュニケーションをとるとか、侵略されそうになるとか、逆に侵略していくといった類のSFではなく、純粋に系外の惑星に居そうな?想像もつかないような生物との遭遇に戸惑う人類の困惑や振舞をハードSFっぽく描いているといったところでしょうか。

 もうファーストコンタクトもののテーマは国内外含めるとパターン化されて、新鮮味がないのではと思ってしまいますが、本書の著者である春暮康一氏のアプローチは人類に想像もつかないような生物の進化を経た存在が広い宇宙には居るのではないかという示唆に基づいて、斬新な生物達が登場して全く飽きさせません
 それもそのはずで、この方のデビュー作である「オーラリメイカー」を読んだときの衝撃はなかなか忘れがたいものがあり、この著作もファーストコンタクトものでありながら、前例に似たようなパターンがないものだったので、今回の本書は本当に楽しみにしていました。

 ジャンルとしてはハードSFなのですが、外国のSFを翻訳して読んでいるような日本のSF作家にはないような文体で、内容の斬新さと緻密な考察に基づく意外な展開と、登場人物の思考の深さなどは、海外に翻訳されてもヒットするのではないのかという予感にさせます。物語の内容は読むのを楽しみにしていただくとして、3編とも世界観は同じところに基づいているというのも、別々のエピソードなのですが、ファーストコンタクトというテーマの長編を読んでいるような感じにさせられます。ファーストコンタクトの際の人類のルールというか哲学ともいえる「人類憲章」や、「閉鎖主義者」の存在、「植民地委員会」など、描き切れていないバックグラウンドの設定の深さを感じさせるので、この先の著作も楽しみになります。

 処女作のオーラリメイカーの時に感じた期待を全く裏切らない本書でした。プロフィールを読むと国内メーカーに勤務されているということで、生物工学を専攻されているというところから、こういった異星生物のアイデアを着想されるのでしょうが、本当に斬新としかいいようがありません。まだまだSF小説という分野の懐を深くしてくれそうな作家が国内から現れるというのは嬉しい限りです。サラリーマン?をされながらの創作は大変かと思いますが、次作も楽しみにしています!

本作品の評価:4.5

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