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Nov

2023

ウール 上 (角川文庫)ウール 下 (角川文庫)

久しぶりの3部作SF小説を読了してみました。第一作のウール上下巻と二作目のシフト上下巻、最後となる三作目のダスト上下巻の計6巻ですが、あっという間に読めてしまいます。内容としては、荒廃した近未来の地球でサイロと呼ばれる地下の高層構造の施設に避難して世代を重ねて暮らす人類の話から始まるディストピア小説ではあるのですが、一作目のサイロ中心の話であるウールから二作目のシフト(この題名に謎が隠されているのですが)となると一気になぜサイロのような施設があるディストピアが誕生したのかという謎が分かる巻となり、そして三作目のダストで伏線が回収されて希望のある?未来に続くラストといった流れでしょうか。

 「ウール」の上下巻からはなかなか想像が出来なかった展開の「シフト」で、この小説の背景たるディストピアが生じた近未来の世界の状況が描かれているのですが、人類破滅のアイデアとしてナノマシンたるウィルスが要因となるのは、COVID-19の記憶がまだ新しい昨今では何とも肌寒い感覚がするモチーフではあります。実際に小説で描かれたような選択型のナノマシンが開発されるような事態になれば、キラーウィルスと機能は同じということでしょうから一つの人類の脅威としてはなかなか怖いものがあります。

シフト (上) (角川文庫)シフト (下) (角川文庫)

 こういった三部作での展開もののディストピア小説というと、大分前に読んだ「パインズ」シリーズのモチーフを想い出しましたが、アメリカはシーズンもののドラマが制作されている文化もあるのでしょうが、うまく三部作に収めつつ読者を飽きさせない工夫は上手なのでしょうか。確かに途中からシーズンもののドラマを見ているような錯覚になる感じがしなくもありません。

ダスト (上) (角川文庫)ダスト (下) (角川文庫)

 最後のシフトの顛末はネタバレも含んでしまいますが、最初のウールの伏線と次作のシフトのエピソードも上手く絡めて、サイロの崩壊含めて希望へと繋がる未来の結末といった感じでしょうか。

 実際にサイトの機能が数世紀も持つのかとか(特に少なからず建築の仕事もしている身からは疑問点が多すぎるきらいはありますが)テクノロジーとはいえ都合よくサイロ以外の人類が死滅するのかとか、ハードSF的に深堀していくときりがありませんが、そういった科学的な考証は脇において普通にエンターテインメント小説として面白いので、お勧めではあります。正直なところラストへ至る怒涛の展開は、映像化のアクションを既に意識している!?のではと勘繰りたくなるような流れではあるものの、これが映像化されたドラマだったら普通に目が離せない面白い作品だなというのは納得してしまいます。

 こういったドラマのモチーフとして逸材なSF小説を生み出せるのも、アメリカの創作パワーが衰えていない感じがして改めてネタの源泉を生み出せる国なのだなと妙に感心してしまいました。あまり肩を凝らずに読めるエンターテインメント小説としてお勧めです。

本作品の評価:3.5

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