Tue
30
Apr
2019
早いもので東日本大震災から8年が過ぎてしまいましたが、随分前に日経新聞の書籍評にあったこの本を最近ですがKindleで購入してから、一気読みしてしまいました。ちょうど時期も震災の3.11を過ぎたあたりではあったのですが、改めて震災被害の何たるかを(ある一側面ではあるものの)思い知らされた感じです。この書籍ですが、実はロイド・パリーという在日歴が長いものの外国人である英国人の記者によるものです。そして全編を通じてクローズアップされているのが、震災被害でも未曾有の悲劇となった大川小学校の遺族を中心に、震災後のいわゆる「霊」にまつわるエピソードと織り交ぜて進んでいきます。ただし、もちろん震災の怪談というものではなく、日本文化でもある祖先の霊を祀るという背景を掘り下げつつ、大川小学校の遺族達を追うことで、震災被害の深淵さと遺族にとって終わらない震災被害を外国人の目ならではの客観性を保ちつつ、冷静に我々に訴えかけてくれる秀逸なルポタージュといえます。
そしてこの書籍の全編にある被災者である大川小学校の亡くなった子供達とその親・家族にインタビューしつつも、死者に対する尊厳を頑なに守る姿勢に深く共感します。実際に怪談じみた「霊」の話が要所に出てくるものの、震災被害の遺族や我々日本人そのものに対する鎮魂の一つの表れとして捉えてくれているようにも感じられ、日本における「霊」の存在をきちんとリスペクトしていることが伝わります。
海外でも高い評価を得ている本書ということで、実際に甚大な被害があったというだけで終わりそうな津波の被害と、その後の遺族の姿もこの書籍によってかなり正確に海外に理解される一助になっているのではないでしょうか。
自分自身の感想としても、実際にニュースでちらほらとしか追っていなかった大川小学校の訴訟についても、それにいたる背景や遺族の方々の決断をきちんとした形で知りえたのは初めてで、ある意味恥じ入るとともにこの書籍を手に取ることができてよかったと思っています。実際に早くも風化の懸念がある大震災と津波の被害について、改めて想いを至らせるよい機会になったと思います。ちなみに昨年の5月に被告である宮城県側が最高裁に上告している裁判の状況ですが、書籍を読了した後では、唯一、大川小学校だけが多大な犠牲を出している結果ややはり校庭に留まった約50分間の状況を思うと、教育者が震災のプロなのかとかいう話以前に、学校を含めた社会が子供たちを守るという義務を果たせなかった事実だけは確かなことだと思えます。実際に沈黙を保っている唯一生き残った教頭一名を除いては、教師の方々自身も亡くなった悲劇を思うと、法律論以前に社会として子供たちを守るためにどのような学校を含めた体制にすべきなのかというきっかけになるような判決を下して欲しいものです。
この書籍ですが、この先も3.11を迎えるたびに、広く読まれていくような本だと思います。外国人でありながら、犠牲者と被災者の尊厳を尊重しつつ大川小学校の悲劇に肉薄してくれた著者に感謝したいと思います。
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