Fri
01
Nov
2019
この本を読んでみて既視感を覚えたのが随分前に読んだ「宇宙の戦士」ですが、それもそのはずでこの2作はいわゆる宇宙の軍隊戦争もの!?として双璧をなす傑作とのことです。読んだときはそんなことも知らずに読んでいましたが、読み進めるうちに随分と共通点が多いなと思いながら読んでいた次第です。一つはやはり異星人との戦争の定番!?ともいえますが、相手が全くもってコミュニケーションが難しい相手だということです。「宇宙の戦士」のときは確か巨大昆虫みたいな異星人だったかと思いますが、こちらはもう少し人類に近いイメージで描かれています。とは言ってもやはり相互のコミュニケーションが不能な敵として描かれており、それも理由になって戦争はまさに「終わりなき」様相で進んでいくという物語です。
2作品に共通していると言えるのが、舞台は未来の宇宙であるものの軍隊の在り方や訓練の様子、組織のヒエラルキーなどは現代の米軍と何ら変わることがなく、カルチャーはまさに海兵隊そのものというのが、何ともギャップがありつつもここら辺が感情移入し易いところなのでしょうか。それもそのはずで、著者のジョー・ホールドマンのベトナム戦争の従軍経験をベースに書き上げられてものということで、モチーフや舞台こそSFですがここら辺は完全にベトナム戦争への反戦的な皮肉に満ちたストーリーともいえます。
小説としての内容の方は、超光速航法「コラプサー・ジャンプ」をするたびに浦島効果で何十年時には何世紀も故郷である地球の時間が経過しており、主人公のマンデラの孤立感はベトナム戦争のその時とは比較にならないものとして描かれています。SFちっくな要素なのは、地球の世代が変わるごとにテクノロジーもさることながら、文化や時には言語までもが変わっていく中で、主人公のマンデラと占有で恋人でもあるメアリイゲイが旧人類としてどんどん取り残されて行ってしまうところは何とも空恐ろしいものがあります。
SF小説としての異星人との戦闘シーンの描写は控えめで、作者の従軍経験が十二分に活かされているというか、実際には戦闘が始まる前に離脱せざるを得なかったり(それでも生き残っただけで英雄扱いで特進するなど)派手な戦闘などは実際には存在せずに一方的な攻撃や殺戮で終わる場合がほとんどで、時には戦場に着く前に(輸送船のダメージなどで)決着が着いたり、戦う以前に負傷したり戦死してしまったりと、ここら辺は控えめに表現しながらもまさにベトナム戦争への反戦を込めた描写なのかなと思ったりもします。
最後に異星人トーランとは和平が結ばれるのですが、その結末は非常に皮肉で、主人公のマンデラ達の世代で始まった戦争が、何世紀も後に人類がほぼクローン化してから初めてコミュニケーションが可能になった後、そもそも始まった理由などなかったことが示唆されて終わってしまいます。ここら辺もイラク戦争の開戦の理由などから、戦争が始まる理由などに大義はほとんどないという作者の皮肉にも思えます。
そんな従軍経験のある作者ならではの反戦を込めたテーマではあるものの、ストーリーとしてはSF要素満載で、どちらかというとマンデラ自身は楽観的な希望を持った語り調で明るく?飽きないテンポで最後まで持っていきます。ラストで数百年のギャップを埋めるべく待っていたメアリイゲイの方法もSFならではですし、そんな明るいラストもベストセラーたる本書の魅力ではないでしょうか。近未来から始まった年表がとんでもない遠い未来まで進んで終わるラストですが、マンデラの未来は孤独でもなく希望に満ちているラストで終わるのは、同じ戦争ものでもSFならではの結末で好感が持てます。理論ベースのハードSFもよいのですが、たまにはこんな純粋な戦争ものSFもよいのではと思います。
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