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20

Nov

2020

息吹

テッド・チャンと言えば映画化もされた(映画題名は「メッセージ」)「あなたの人生の物語」ですっかり有名になったアメリカのSF小説家ですが、この短編集「息吹」はごく最近の2019年に刊行されたものです。「あなたの人生の物語」もそうでしたが、SF小説でありながら一風変わった!?作風で、独特の世界観を醸し出しているイメージが強いのですが、今回のこの短編集というかアンソロジーとでもいうのでしょうか、オムニバス形式的に様々なシチュエーションのSF短編が一気に読めるとても濃厚な短編集になっています。
何といっても最初の収録作品である「商人と錬金術師の門」からして、いきなりすごい短編でアラブの中世の世界観の中にタイムトンネルを違和感なく取り入れて、それでいて主人公たる商人の人生観の儚さを表現している傑作です。そして、2作目で早々に表題作の「息吹」となるのですが、何とも読後感たるや異世界の宇宙でありながらも今の我々の宇宙を表現させられているようで、所詮は地球に住む我々も結局は似たような境遇なのかと考えてしまう作品です。
 収録されている中でも一番長い?作品と思われる「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は、近未来ともいえるデジタル上での生物ペットを軸に、何とも切ない人間関係を時系列で語っていて、SF作品でありながらちょっとした恋愛物語なのかなとも思ったりします。題材こそデジタル上に生息する生物進化ですが、主人公のヒロインと脇役の男性の切ない恋物語でもありますし、単なるSFモチーフの作品で終わっていないところが、この作者の素晴らしいところでしょうか!?

 ともかくも一読してみないとこの作者の作風というか奥深さは伝わらないといったところでしょうか。お勧めのSF短編集かと思います。

本作品の評価:4.5

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