Sun

28

Jan

2024

グレイベアド―子供のいない惑星 (創元SF文庫)

先に読了した「寄港地のない船 (竹書房文庫)」に続いてのブライアン・オールディスの著作である「子供の消えた惑星 (創元推理文庫 640-2)」を読んでみました。核実験の延長である宇宙での核実験で、地球を宇宙放射線から保護しているヴァンアレン帯が不調となり、全人類が放射線にさらされて不妊化してしまった近未来(というか小説の発行年から考えるとまさに今の年代にあたるのでしょうか)を描いた物語です。この子供が生まれなくなるシチュエーションで、人類社会がどうなってしまうのかというのは、SFの一つのモチーフとしては割とあるのでしょうが、私が生まれる前に作品を発表していたブライアン・オールディスの著作としてこのモチーフの長編があったというのは、結構驚きです。

子供の消えた惑星 (創元推理文庫 640-2)

 ちなみに復刻版は主人公である「灰色ひげ(Gray Beard)」がそのまま書籍のタイトルになっているようですが、私がAmazonの古本で入手したものはこの写真のそのものなのですが、「子供の消えた惑星」というタイトルとなっています。原書が1964年、この深町真理子さんの最初の邦訳版も1976年が初版とのことなので、もう私が生まれる前とその直後ぐらいの書籍ということになります。ストーリー自体は先の通り放射線異常で不妊化した人類社会が緩やかに崩壊している過程を、主人公の一行が河を下る冒険譚的な過程で、過去を振り返りながら描写していくという、ロードムービー的な雰囲気の中、子供が存在しない世界が崩壊していかざる得ないシミュレーション的な要素も含みつつ進行していくといったところでしょうか。

 そんな救いのない近未来社会の描写とその先の希望が消えたと思われる社会で、主人公とその伴侶の前向きな人生観に救われつつ、周囲の人の狂気が実は最後で救いの希望に昇華していくといったところは、なかなか予想させない展開で読み応えがあります。ネタバレとなりますが、終盤でなぜ子供の姿が全く存在しなくなるのかの理由の一つが、結局は人の社会の救いのなさというか、崩壊した社会で子供が生き延びる唯一の解を見せられたようでもあり、何とも言えないラストではあります。

 随分と前に映画で観た似たようなモチーフで「トゥモローワールド」という映画がありましたが、こちらの映画とは違い、近未来シミュレーション的でありながら、時系列的に人類社会が崩壊(そして再生?)していく過程をシビアに描写している点については、ブライアン・オールディスの方が格上でしょうか。

 随分と古い書籍でありながら、全く時代性を感じないむしろ当時の核戦争の警鐘でもあり、今現在の社会システムへの警告でもある本書が、ほぼ絶版扱いなのは残念です。色々と著作権の問題もあるのでしょうが、こういった古典こそできればKindleで入手できるようにしてもらえればなと思わなくもありません。ちなみに古本の本書のカバー裏にはブライアン・オールディスのものと思われるサイン(多分コピーとは思います)が、印字されているという特典はありました。

本作品の評価:4

 


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